B:猛禽の人拐い ヴオコー
「ヴオコー」は、人喰いの大型コンドルよ。
以前にも「ニーム浮遊遺跡」を調査していた一団が襲われ、多数の被害が出たというわ。
悲鳴を聞きつけた黒渦団の紅燕陸戦隊が駆けつけたけど、時すでに遅し……。なんと人の肩を掴み、遠方へと飛び去ったそうよ。
~手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
外地ラノシアの黒渦団の拠点キャンプ・オーバールックからほど近い山中に「ニーム浮遊遺跡」はある。
古代都市国家ニームは1500年前バイルブランド島を領有していた海洋国家だ。高地ラノシアから外地ラノシアにかけてはこの古代都市国家ニームの遺跡が数多く存在し、中でも有名なのが高地ラノシアにあるワンダラーパレスとこのニーム浮遊遺跡だ。
ニーム浮遊遺跡はその名の通り、山間の谷にいくつもの遺跡を乗せた小島が宙に浮かんでいる。恐らくはオレンジ色に輝くクリスタルの力なのだろうと言われているが、その原理は未だ解明されていない。未解明な原理だけにエオルゼア全土からそれを解明して名を上げたい研究者や軍事転用を画策する者、または空ではなく地中に埋まっているであろう過去の文献や道具、歴史書や魔導書を求める者などを求め調査団が訪れてはその原理の解明や未知の知識の発見に向け調査を行っている。
だがそんなことは知った事ではない。一番高い浮島から地上を見下ろしてヴオコーは様子を窺っていた。
ヴオコーは羽を広げると4mを超える大型の猛禽類だ。宙に浮いた浮遊遺跡は風の影響を受けやすく、時には激しく揺れる。そのことからヴオコーは宙に浮く浮遊遺跡には巣を作らず、人が踏み込みにくいような目立たない草むらなどに巣をつくる。
元々ヴオコーは昔からこのニーム浮遊遺跡を縄張りとしてきた。空中に浮かぶ遺跡は天敵に襲われにくい事もあって多くの鳥類が巣を作っている。猛禽類であるヴオコーにとって理想的な狩場だ。しかし、鳥類にしては知恵の回るヴオコーはその姿こそ昔から確認されていたが近年まで人を襲う事はしなかった。
何故ならヴオコーは元来ここが人間の縄張りであったということを薄々知っていたし、奴ら人間はヴオコーとは食すものが違うので餌場が脅かされることはない。また様々な道具を扱う人間にむやみに敵対してもなんのメリットもないと本能的に察していたからだ。
しかし、数年前ニーム浮遊遺跡に現れた人間どもは何かが違った。行動がいちいち粗暴で喧しく、遺跡のあちこちを計画性もなく好き放題に、かつ無神経に、そして乱暴にひっくり返してまわった挙句、乱暴にどかした岩の塊をヴオコーの巣の上に倒し、大事な卵を下敷きにして潰されてしまった。
これには我慢を重ねてきたヴオコーだったが、さすがに我を忘れるほどの怒りに駆られ、連中に襲い掛かると鋭い鉤詰めで何度も切り裂き、嘴で何度も突き刺した。油断しきっていた調査員たちは逃げ惑ったがヴオコーは容赦しなかった。次々と鋭い鉤爪と嘴で調査員を殺害した。そして最後に残った一人に襲い掛かろうとした瞬間、武装した人間が集団で現れた。最後の一人は武装した連中に助けを求めながら走り出したがヴオコーはその男を鷲掴みにすると矢も届かない程空高く舞い上がり、山間の深い谷の上まで連れ去ると男をそのまま谷底目掛けて放り投げてやった。それでも我が子を無惨に殺された怒りは到底収まるものではない。
それ以来、縄張りに侵入してくる人間に対して我慢する事をやめた。ヴオコーが人間を襲わなかったのは人間が縄張りにいることでメリットもなかったがそれ以上にデメリットもなかったからだ。
しかし、今は明確なデメリットが認識できる。
そして今も浮遊遺跡の上に立ち、眼下に広がる地表を警戒している。また人間が縄張りに入ってくる気配を感じた。ちょっといつもとは違う感じだ。だが関係ない。ヴオコーは侵入者の姿を目視で確認するとその不届きな連中に向かって急降下しながら襲い掛かった。